ちてはこ菓子店

小学生の頃に朝ごはんに卵焼きを作るようになりました。
母はいつもシュガートーストを作ってくれていました。食パンにマーガリンを塗ってその上から白糖を振りかけて完成。
朝ごはんはこのシュガートーストとカルピス。それが毎日のルーティンでした。
父は僕たちよりも早く起きて仕事に出かけていったので朝食をともにすることはあまりなかったけれど、ある日、同じ時間に起きてきて台所に立つと玉ねぎを刻んでフライパンで炒め始めました。しんなりした玉ねぎに卵を割って塩コショウして大皿に入れてドンとテーブルの上に置いたのです。
シュガートーストを半分食べていたけれど、父が箸でその玉ねぎ炒めを残ったトーストの上に乗せてくれました。
シュガートーストの上だったのに、全く別の食べ物になりました。そして美味しかった。
その日から皆がトーストの上に炒めた玉子を乗せて食べるようになりました。朝は時間がないから大したものは作れません。卵を煎るように炒めて(それをスクランブルエッグと呼ぶことさえ知らなかった)炒めすぎているのでポロポロとトーストから転げ落ちました。
うちにはなぜだかプロの料理人が使うような銅製の卵焼き専用のフライパンがあって、それで見よう見まねで卵焼きを作ってパンの上に乗せました。パンをクシャッと二つ折りにしてかぶりつくと、ジュワッと卵の半熟が染み出して美味しかったのを覚えています。
毎日卵焼きを作っていると、ちょっとずつ上達して、卵一個しか使っていないのにきちんと四角い卵焼きが出来るようになりました。
それをパンの片端に乗せて、包丁を横から入れて薄く二枚に切って、開くように広げるとちょうどトーストの上一面に広がって、中央の半熟部分が美味しそうに見えます。
時々姉や兄が真似をして卵焼きを作ろうとするけど、醤油を入れすぎて茶色くなったり、つぶれてスクランブルエッグになったりしたけどうちの家ではこうして卵のオープンサンドが定番になりました。
こうして僕が覚えた最初の料理は「卵焼き」となりました。
薄々感じてはいたけれど、物心ついた頃には「母は料理が苦手」ということがわかってきました。
一汁一菜ってよく言うけれど、うちには「汁もの」がありませんでした。普通の家ではある「味噌汁」が出て来ませんでした。
母に聞いたら「私は汁物が嫌い」と言われたのを覚えています。

味覚は子供の頃に成長します。
だからいろんな味のものを食べた方が大人になってからも細やかな味覚で様々な美味しさを感じることができるようになります。
楽しみだったのは正月だけ。
うちの家のお節料理は父が作ります。
実はうちの父は昔コックの修行をしていたことがありました。だから料理は父の方が上手でした。
句を言わなかったのは母の顔を立てるためなのか?食事には文句を言わないタイプだったのか?父は早くに他界したので今となってはわかりません。
正月の準備は二十八日頃から始まります。最初にしなくてはならないのは小麦粉をラードで大きなフライパンで炒めること。給食で使うような大きな木のシャモジで弱火でじっくり炒めます。最初は小麦粉が硬くて混ぜるのに力が必要。これを何時間も続けていると白かった小麦粉が少しずつ色づいてきます。ベージュから薄茶色に、薄茶色から茶色に、茶色から焦茶色に、最終的にチョコレート色になったら火を止めて冷まします。(ここまで約三時間)
隣のレンジでは大きな寸胴鍋(洋食屋にあるような)で鶏ガラと野菜クズ(にんじん、玉ねぎ、セロリの葉も皮も全部)にセージやロリエを加えてアクを取りながらコトコト煮込んでスープをとっておきます。
鍋の中身を一旦取り出して、今度は刻んだスジ肉を入れて、またアクを取りながら煮込みます。スジ肉が柔らかくなった頃に先に作った炒めて焦げ茶色になった小麦粉を加えて、そこから1時間は底から焦げないようにかき混ぜながら煮込みます。
野菜もほとんど溶けて崩れてきたら(ここまで1日)中身をシェノワ(濾し器)などで濾して、新たにロリエなどのスパイスを加えて、焦げ付かないように煮ます。 隣のレンジでフライパンを熱してバターを溶かして子供の握り拳ぐらいの大きさに切った牛の頬肉(ツラミ)を塩コショウして炒めて、最後に赤ワイン(僕は日本酒を使います)でフランベして、鍋に入れます。
トマトピューレ、ブイヨン、塩コショウで味を整えます。(ケチャップもOK)
ここからはコトコト弱火で煮込み続けると、最初沈んでいた肉が浮かび上がり始めて、さらに煮込むと再び沈み始めます。鍋の表面に浮いた油は掬い取って別にとっておきます(炒め物などに使うと美味しいです)。沈んだ肉を木ベラで取り出してみて、左右に振るとフルフルと揺れるようになったら、箸の先を刺してみてスッと通るようだったら、肉だけを取り出してタッパウエアなどに入れて冷やしておきます。
(これ以上煮込むと肉が崩れて溶けてしまう)

食べるときは小鍋でシチューを温めて、肉を加えて温まったらお皿にポテト、にんじん、クレソンなんかを添えてお出しください。

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