ちてはこ菓子店

まだ本格的に業態を変える前、私たちはさまざまな試みをしていました。私は作り上げたタルトをどこでどのように売るかを考え続けていました。相方は相方で自分が今出来ることを模索し続けました。
ある日、電話が鳴って相方が取ると見るからに嬉しそうにしています。「どうした?」と聞くと有名出版社が出している某有名誌に商品を載せたいと連絡があったようでした。
私は長い間クリエイターとしてフリーで働いていたのでいろんな企業に話を持ちかけたりアポイントを取ることに慣れていましたが、かつては会社員として働いていた経験があるとはいえ、全く知りもしない大きな企業に連絡を取るだけでも彼女には勇気が必要だったに違いありません。
その雑誌に掲載されるだけで彼女は飛び上がって喜んでいましたが、その話には続きがあって後日同じ出版社から「同じ商品をもう少し多く送ってほしい」と連絡がありました。事情を聞くと掲載される雑誌は「お取り寄せ」の優れた商品を探して審査する内容で皆が知っている著名人が審査員となっていました。掲載される各社の商品は「お取り寄せグランプリ」というコンテストに出品されるので、審査用に多めに商品が欲しいとのことでした。
ある日、また電話が鳴り相方が出るとみるみるいかにも嬉しそうな表情になりました。その電話は「おめでとうございます。御社の商品が『準グランプリ』に選出されました」という連絡だったのです。それまで独学で誰にも評価されることのない私たちの商品が初めて公の場で評価された瞬間でした。

STORY 最近の記事