ちてはこ菓子店

私たちは奈良のきたまちと呼ばれる古い市街地の片隅にある築百年の古民家を改装してお店を始めました。
そのお店の名は「ちてはこカフェ」と言いました。
私たちは順風満帆だったわけではありません。
そこから試練となる十年を経てようやく新しい灯をともすことが出来たのです。
少しだけ私たちの物語をお聞かせしましょう。

二〇一一年十二月。
私たちのお店はいよいよ開店する日を迎えました。知人にはショップカードを渡し、前日から仕込んだ料理をもう一度確かめました。
「ちてはこカフェ」おかしな名前。
お客様にも何度も聞かれました。『ちてはこ』ってどういう意味ですか?
実はこのカフェを開業する前に私は鬱病を患いました。その頃私はグラフィックデザイナーとして大阪市内に小さな事務所を持っていました。その時に伝えたいことを伝えられずに事務所を閉じなくてはならなくなりました。その後悔が鬱病の引き金になりました。
「人に伝えなくてはならないこと」
偉そうなことを言うつもりはありません。でも二度と後悔せぬように自分たちの経験してきたことや感じていることを伝え、後悔せぬよう私たちの姿を見せ、やるべきことを実行して行きたい。そんな思いがこの「ちてはこ」の四文字には込められています。
「ちてはこ」とは「父の手と母の心」。
その頭文字の四文字をとって「ちてはこ」なのです。
大学を卒業した後、私はデザイン制作会社に就職しグラフィックデザイナーとしてのキャリアを歩みました。
二十八歳で独立し、自分の事務所を持ちました。途中バブルの崩壊やオイルショックなどをなんとか乗り切った頃、現在も公私共にパートナーとなった家内と出会い結婚しました。私は鬱病を患った時、デザインの仕事から離れることになりました。そしてレザークラフトの世界へと転身しました。
(レザークラフトのことはまた別の機会にお話ししましょう)
二〇一一年にはじめたカフェの経営は次第に悪化し赤字経営に陥っていました。何とか経営を維持していましたがやがてそれも限界がやってきます。
私たちは自分たちの仕事について本当にこれで良いのか?という問題に真剣に取り組まなくてはならなくなりました。そこからようやく私たちの道は拓けて行ったのでした。

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